第8回 バーチャルホストによる複数サイトの同時運用 独自ドメインが使えるホスティングサービスは、どのように実現しているのだろうか? その鍵となるのが「バーチャルホスト」である。この機能を使うことによって、1台のマシンで複数のWebサイトを運用できるようになる。 2001/8/28
バーチャルホストとは 今回は、Apacheの特徴的な機能の1つである「バーチャルホスト」について解説する。この機能により、少ないリソースで複数のWebサイトを構築することが可能になる。 ■なぜバーチャルホストが必要なのか 通常、Webサーバへのアクセスにはwww.atmarkit.co.jpやwww.tis.co.jpといったURLが利用される。URLの「atmarkit.co.jp」や「tis.co.jp」の部分はドメイン名、「www」の部分はホスト名と呼ばれる。第2回でも説明したとおり、実際にはURLをIPアドレスに置き換えなくてはWebサーバにアクセスできない。そこで、先方ドメインのDNSにIPアドレスを問い合わせ、アクセスするホストのIPアドレスを取得する。 問題はここからで、例えば「www.atmarkit.co.jp」と「linux.atmarkit.co.jp」という異なるURLで同じページを表示したいとする。これは、どうすれば実現できるだろうか。あるいは、「www.atmarkit.com」と「www.atmarkit.co.jp」を同一のサーバで実現したいとしたらどうだろう。 前者は、「ホスト名は違うが同じコンテンツを表示したい」という要求。後者は、「単一のサーバで複数のドメイン名を使いたい」という要求である。これらを実現する方法としては、以下のようなものが考えられる。
3つの方法を挙げてみたが、それぞれに一長一短があって決め手にかける。場所などの制約でサーバを増やせなかったり、複数のApacheを立ち上げてリソースを消費したり、ネットワークカードがボトルネックになったり。それぞれの欠点をうまくカバーできる方法はないだろうか? そこで登場するのが、バーチャルホストである。この機能を使えば、1つ(あるいは複数)のIPアドレスと1台のサーバだけで複数台のWebサーバマシンと同じ役割を果たせるようになる。台数の制限はないから、理論上は何台分の役割をさせても構わない。追加投資なしに複数台のサーバを用意するのと同じことができるわけだ。先に挙げた例のように、ホスト名を使い分けたい場合や複数のドメインを管理したい場合に非常に有益な機能といえる。しかも、バーチャルホストなら「www.atmarkit.co.jpとlinux.atmarkit.co.jpで異なるページを表示したい」といったニーズにもこたえることができる。
バーチャルホストを実現する2つの方式 バーチャルホストを利用するに当たって、検討しておかなければならないことがある。バーチャルホストには、「NAMEペース」「IPベース」という2種類の方式があるのだ。1つのIPアドレスで実現できるのが「NAMEベースのバーチャルホスト」、複数のIPアドレスを単一のApacheで処理するのが「IPペースのバーチャルホスト」で、それぞれメリット/デメリットがある。 ■IPベース IPベースのバーチャルホストは、IPアドレスでホストを区別する方式である。IPアドレスを複数用意することは可能だが、サーバを複数台用意するのが難しいという場合に有効だ。例えば、設置面積や消費電力の制約でサーバが増やせないといったケースが考えられる。この方式は、IPアドレスを消費するという点以外に特にデメリットもない。 もう1つ、積極的にIPベースを採用する理由を挙げるなら、内部アドレスと外部アドレスの両方でアクセスできるようにする場合である。これは、最近流行の電子商取引や社外からもアクセス可能なイントラネットなどで用いられる。つまり、社内LANからのアクセスと社外(インターネット)からのアクセスにそれぞれIPアドレスを割り当てたサーバで利用するのだ。社内のサーバへアクセスするために、わざわざインターネットに出ていく必要も複数のサーバを用意する必要もない。コンテンツ管理を一元化することもできるし、社内からのアクセスか社外からのアクセスかを区別できるから、コンテンツへのアクセス制限も行いやすい(アクセス制限については次回に解説する)。 なお、1台のサーバに複数のIPアドレスを割り当てるには、ネットワークカードを複数装着するか、前述したようにVIFを使う必要がある。本稿では、複数のIPアドレスが割り当てられたサーバ環境までは完成しているという前提で話を進める。 ■NAMEベース NAMEベースのバーチャルホストは、WebブラウザがWebサーバに対して送るホスト名を基にして応答するホストを決定する方式である。 NAMEベースのバーチャルホストには、大きな弱点が存在する。クライアント(Webブラウザやプロキシ)が、NAMEベースのバーチャルホストに対応していなければならないということである。つまり、アクセスしているサーバのホスト名をサーバに送り返す機能がクライアントに実装されていないと、NAMEベースのバーチャルホストが機能しないのである。最近のクライアントであれば問題ないが、一部の古いWebブラウザやプロキシはホスト名を送り出さずにIPアドレスだけをサーバに送信する。すると、サーバはどのホストへのアクセスなのかが判断できないことになる。 いずれにしても、バーチャルホストにはハードウェアコストがかからず、設定や運用が簡単であるといった多くのメリットが挙げられる(編注1)。やたらと多くのWebサーバを用意する前に、こうした機能が存在することを理解し、ハードウェア資源を有効活用するようにしたいものである。
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IPベースのバーチャルホスト 前置きが長くなってしまったが、設定の解説に移ろう。バーチャルホストは、概念が複雑な割に設定そのものは単純である。ただし、バーチャルホストにはDNSの設定が不可欠である。複数のホストを賄うにしろ複数のドメインを担うにしろ、DNSの変更なしにアクセスを受け入れることなどできないからである。 ■DNSの設定 まず、DNSの設定を済ませてしまおう。IPベースの場合は、ホストごとにIPアドレスを持つので特殊な設定は必要ない。ゾーンファイルに、
という具合に、Aレコードを羅列していくだけである(ゾーンファイルの設定については、「BINDで作るDNSサーバ」第2回 名前解決の仕組みとゾーンファイルの設定を参照)。つまり、それぞれユニークなIPアドレスを持った複数のWebサーバが存在するものとして、各ホストを通常どおりに登録するだけである。 ■Apacheの設定 Apacheの設定には、VirtualHostディレクティブを利用する。VirtualHostディレクティブは、
のように記述し、これが1ホスト分のブロックとなる。つまり、バーチャルホストでホスティングしたいホストの数だけ、このブロックを記述すればよい。IPベースで注意する点は、<VirtualHost IPアドレス>のIPアドレスを各ブロックで異なるものにしなければならないということである。Apacheは、このIPアドレスでホストの設定のブロックを識別するからである。 <VirtualHost>と</VirtualHost>の間には、各ホストの設定に必要なディレクティブを列挙する。最低限、ホスト名を表すServerNameディレクティブとそのホストのコンテンツディレクトリを表すDocumentRootディレクティブを記述しなくてはならない。これ以外はオプション的な扱いとなるが、管理者のメールアドレスを表すServerAdminディレクティブやログファイルの位置を表すErrorLog、TransferLogディレクティブくらいは記述しておくことをお勧めする。従って、VirtualHostディレクティブで囲まれたブロックの基本構造は、
となる。 以上の条件に従って、「www」と「linux」という2つのホストを定義したものが次の例である。このようなものをApacheの設定ファイルhttpd.confの最後に記述する。最後でなくても構わないが、httpd.confの最後にVirtualHostディレクティブの例が示されているため、これに準じて最後に記述するのが一般的だ。
最後に、IPベースのバーチャルホストではBindAddressディレクティブにも注意してほしい。BindAddressディレクティブは、そのApacheがリクエストを受け付けるIPアドレスを定義する。例えば、
と書かれていたら、そのApacheは192.168.1.11にアクセスされた場合しか要求を受け付けなくなる。IPベースでは複数のIPアドレスを受け付けなければならないので、これではまずい。複数のIPアドレスでアクセスを受け付けたければ、
のようにIPアドレスを続けて書くか、
としてワイルドカードを使う。また、
とすれば、そのサーバに割り当てられたすべてのIPアドレスへのアクセスを受け入れるようになる。 NAMEベースのバーチャルホスト こちらもIPベースと同様、DNS、Apacheの順で解説する。 ■DNSの設定 IPベースの場合は、Aレコードで各ホストとIPアドレスの対応をDNSに登録していた。しかし、NAMEベースの場合はIPアドレスが1つしかないため、Aレコードで登録することはできない。NAMEベースでは、1ホスト分のみAレコードで登録し、残りのホストはCNAMEレコードで別名定義する。例えば、「www」と「linux」という2つのホストを172.16.1.11という1つのIPアドレスで運用するなら、
と記述する。まずAレコードでwwwというホストに172.16.1.11というIPアドレスを割り当てる。linuxというホストはCNAMEを使ってwwwの別名として登録する。こうすることで、172.16.1.11というIPアドレスにはwwwとlinuxという2つのホスト名が割り当てられたことになる。ホストを増やす場合は、同様に
という行を追加していけばよい。 ■Apacheの設定 NAMEベースの場合、使うIPアドレスは1つだけなのでBindAddressディレクティブへの注意は必要ない。その代わり、NameVirtualHostディレクティブを使って複数のホスト名で共有するIPアドレスを示さなくてはならない。 以下の例は、192.168.1.11でwwwとlinuxの2つのホスト名を利用する場合の設定例だ。
NameVirtualHostの追加と、VirtualHostに記述するIPアドレスが共通であることを除けば、IPベースの設定とNAMEベースの設定に違いはない(編注2)。
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