集中連載:DNSの仕組みと運用(2) インターネットを支えるDNS 加地眞也 2001/12/27
■ドメインの種類前回説明したように、ドメイン名(FQDN)とは「ドメイン・ツリー」と呼ばれるDNSの根幹そのものの書式を示している。
ところで、このトップ・レベル・ドメイン(TLD:Top Level Domain)やセカンド・レベル・ドメイン(SLD:Second Level Domain)は、だれがどのように決めて管理しているのだろうか? TLDなどを決定・運営しているのがICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)で、ドメイン名のほか、IPアドレス/ポート番号管理などを指揮する国際的な非営利法人団体である*1。すなわち、ルート・ネーム・サーバのゾーン情報など、すべての権限はICANNが管理しているわけだ。 トップ・レベル・ドメインは、大きく分けて2種類ある。1つはgTLD(generic TLD)と呼ばれる汎用目的のためのドメインで、従来からは7つ定義されている。もう1つがccTLD(country code TLD)と呼ばれる、国ごとに定められたTLDである。ccTLDのドメイン名はISO-3166(JIS X 0304としても定義されている)で定められた国コードから割り当てられている*2。原則的に、すべての国/地域が所有し自由に使用できるドメイン名である。
gTLDは、さらに登録資格要件や登録管理主体によって分類できる。「.com」「.net」「.org」は、それぞれ利用目的が定められているものの、実質的に国籍や目的、団体/個人を問わず自由に取得できる国際ドメインだ。管理責任は最終的にICANNが負う。そのほかの「.edu」「.mil」「.gov」などは、目的からして国際的には開放されていない。これらは、当初gTLD自体が米国国内向けを想定していたことの名残といえる。「.gov」などは、当然米国政府そのものが登録を担当することになる。 また、2000年にICANNが新たな7つのgTLDを承認し、今後運用が開始される予定だ。現在までに、5つのgTLDがすでに登録受け付けや運用を開始している。
とはいえ、特にぴんとこないドメインばかりに感じられるかもしれない。実際、より多種のgTLDを求める声は多く、ICANNを中心に現在もgTLDについての議論が続いている。これは、TLDが一種のマーケティング・ツールともとらえられているからだ。 「サイバー・スクワッティング(cyber squatting)」という言葉を聞いたことがあるだろうか? これは、ドメインの取得は原則として先願主義(早い者勝ち)であることを逆手に取って、転売目的で商標を表すドメイン名の「横取り」をする行為のことだ。近年、こうした行為が多発しているのは、本来IPアドレスを分かりやすく表すための「記号」でしかなかったはずのドメイン名を、サイバー・スペース上での「会社名」や「登録商標」ととらえる傾向が、非常に強くなってきたからだ。企業にとっては、重要なマーケティング要素と見なされるようになったということだ。こうした影響は、gTLDにおいても例外ではない。もともとDNSというシステムでは想定されていなかった、このような多様化や意味の冗長化現象には懸念も根強いものの、社会要請という点からは、今後もより多くのgTLDが追加される可能性が高い。 一方、ccTLDでは各国のネットワーク管理組織(NIC:Network Information Center)が管理主体となる。日本ではJPNIC((社)日本ネットワークインフォメーションセンター)が担当している。実際に、どのようなポリシーでどのように管理されるかは、国によって異なる。中でもSLDをどう取り扱うかは、完全にそれぞれの国ごとのポリシー次第だ。 例えば、日本ではjpドメイン以下のSLDとして「co」「ne」「go」など、組織業態ごとに取得可能なSLDが定められている。「co」は企業組織を示しているが、ほかの国でも同じとは限らない。auドメイン(オーストラリア)などでは、「com」で企業組織を示す。
前回説明した権限委譲の原則を覚えているだろうか? 上位ドメインから権限委譲されたドメインは、それ以下のサブドメイン全般を自由に管理できる。これは、たとえトップ・レベル・ドメインであっても、完全に同じことなのである。
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図2 ドメイン・レジストリとレジストラ |
例えば、「.com」や「.net」などのgTLDの登録は、最終的にはルート・ネーム・サーバへの登録を行うことになる。国内で企業向けドメインを登録するには、「co.jp」ドメインのDNSサーバへ登録すればよい。
こうしたDNSサーバのゾーン情報登録時にレジストラが登録管理のために使用するのが「ドメイン・レジストリ」である。ドメイン・レジストリは、一種の登録用データベースのようなもので、複数のレジストラによって共有されることで登録内容の整合性を保つ。そしてこの内容が、ゾーン情報へと変換登録されるのである。つまり認定レジストラとは、このドメイン・レジストリへのアクセス権限が付与された業者だといういい方もできる。また、ドメイン・レジストリの管理者を「レジストリ」と呼ぶ。
例えば、gTLDのドメイン・レジストリを管理しているレジストリがVGRS(VeriSign Global Registry Services)だ。歴史的経緯からNSIが所有するシステムを使用しているが、もちろんほかのレジストラもこれを利用している。
複数のレジストラによるドメイン登録業務への競争原理導入は、ここ数年の大きな潮流となっている。日本でも昨年JPNICから日本レジストリサービス(JPRS:Japan Registry Service)がドメイン登録運用管理を専門に行う企業として設立され、汎用jpドメイン(後述)の登録実務に関しては認定された複数のレジストラが行うようになった。現在では、「co.jp」など従来のドメイン登録はJPNICが行っているが、2002年春をめどに全面的にJPRSへ移行する予定だ。
近年のドメイン取得費用の低下には、こうした適正な競争導入の影響は見逃せない。現在のインターネットが、ボランティアから商業サービスへ成熟する一過程にあるともいえよう。